大学院入試 専門問題<救急専門医の育成について、特に、LeadershipとManagementを事例や学術内容を踏まえて論じよ>

前回は英語の問題を2問、概説したよ。英語以外は専門問題1問と一般問題1問が60分で出題されたよ。わたしは医学教育系だったので上記の問題をセレクトして30分程度で記述しました。手書きつらかった。。。ちょっと参考文献を載せつつ、公開します。少し硬い文章なのは悪しからず(流石にうちのボスのような文章で入試の記述式は怒られちゃうからね)。

便宜的に、ジョンPコッターのPerformance型とManagement型に分けて考察したい*1。

Performanceをあげて信頼を得る。

1st step)心肺蘇生の現場でリーダーを任されたことはあるか。いきなりリーダーは難しいので、蘇生の現場で各持ち場をまずスムーズにこなせるようになる。蘇生はチームでするため仕事はモジュール化されている。気道、人工呼吸器設定、薬剤の選択と投与、除細動器、蘇生後低体温療法といったことに精通する。これらが一通りできるようになると、リーダーを任されるようになる。できないといつまでたっても任せられない。なぜなら各部署でうまくいかなかったときに、リカバリーするには、プランBやCを立てることはもちろん、自らが実践する可能性もある。そのため、Performanceがあることは蘇生チームを導くための必要条件であると考える。蘇生現場では指示型リーダーシップが求められることが多い。はじめは、同じ部署で働く、研修医、看護師、後期研修医、放射線技師といった少人数のチームを率いることから始めたい。

2nd step)院内急変でのリーダーを担えるか。チーム編成が自分の知らない人となるのが院内急変の場合である。その場で指揮を執り、役割分担を指示し、各部署からの情報収集をし、蘇生管理をすることができることを要求される。救急の○○先生が来てくれたので安心と思わせることができるか。

3rd step)局所災害のCommanderになることができるか。災害のMnemonicsであるCSCATTTを知っていることはもちろん、最初のCommanderになることができるか。最後の3つTriage、Treatment、Transferがきちんと機能するためには、CSCAの確立が重要であることは論を待たない。災害宣言と指揮命令系統の確立(Commander)、自分と仲間、現場の安全確保(Safety)、部署間やチーム間での情報伝達方法の確立(Communication)、災害の評価(Assessment)ができるようになると一人前といえよう。

Performanceを極めるには、Learning pyramid*2を意識するとよい。いきなり、”Does”とはいかないのが救急医療である。1stや2nd stepでは、ACLSやICLSを学び、指導すること、3rd stepでは、DMAT隊員となり、院内災害訓練、市や県の災害訓練、ブロック訓練、政府訓練に参加し、”Show”できるようにSimulationを重ねることが大切である。

Management力を伸ばす。

Performance(知識や技術)があることは、周囲の信頼の必要条件ではあると先に述べた。それだけでチームがうまくいくかというと、そうは問屋が卸さない。”態度”も重要な要素となる。忙しくて冷たくなったり、言葉が荒くなってしまっては、仲間の心理的安全性は担保できない。蘇生という現場でもいいリーダーシップは発揮できない。なぜなら重要な報告が上がってこなかったり、無理なことをして合併症を起こしたりと良いリーダーシップが発揮できないからだ。Performanceが必要条件にしかなりえないのはこういった理由からだ。

1st step) 平常時のER運営。患者さんの待ち時間や診療はもちろん、救急車の台数、研修医の抱えている患者さんの質や量、看護師さんや放射線技師さんの仕事量にも心配りを忘れない。少し混雑してきたら、普段看護師さんに頼んでいることを積極的にやってみよう。点滴を作ってみたり、患者搬送をしてみたり、包交車や点滴台を整理整頓したり、持ちつ持たれついい関係を築きたい。そんな職場での思いやりは組織市民行動と言って、職場の運営を円滑にするのに役立つ。できる医師とは何も自分の知識や技術が高いことだけを指すことではない。長いこと患者さんを抱えている研修医には声掛けをしたり、仕事が立て込んでいる看護師さん、技師さんには優先順位を伝えたり交通整理を心がける。リーダーナースとはベッドコントロールや診療の進捗状況も共有したい。平常時は、Five micro skills*3を使って丁寧なフィードバックを心がけて研修医に大いにstep upしてもらう。まだまだ自信のない彼ら彼女らの仕事に感謝し、ねぎらう。患者の前で立ててあげると、自己効力感は高まり、診療に積極的になってくれることが多い(承認欲求を満たすことも時には必要)。コンサルトした科には十分に配慮する。診断は定性的ではなく、定量的に(重症度、緊急度がわかるように)することはもちろん、入院に際して必要なもの(検査はもちろん、家族への説明を含む)をそろえたい。内因性疾患では隠れた外因性がないか(失神や痙攣に伴う外傷)、また逆に外傷でのコンサルトでは内因性に起因していないかを吟味したい。守備範囲が狭い科(マイナー科)の場合は、内科の先生にお墨付きをもらったりすることを忘れずに。

2nd step) 他科と主科決定でのもめごと。「うちじゃないっす。救急で持ったらどうですか?」一生懸命やっていても他科とのもめごとや患者の行き場がなくなってしまったりということは少なくない。まずは患者さんのアウトカムが一番よくなるのはどの科が最適かを考えたい。この時には救急の知識のみならず、病棟や手術場でどんなことが起こるかを日頃から勉強しておきたい。まずは冷静に客観的に患者さんを評価する。感情とは分けよう。コンフリクトマネージメント*4の基本である。実はStep1で良好な関係が築けていると交通整理もスムーズにいくもの。平時のマネージメントを真剣にやっておきたい。

3rd step) M&Mカンファレンス*5、不幸にも患者さんが不幸な転機をたどることがある。当事者の場合はもちろん、当事者でなくても積極的にM&Mカンファレンスには参加したい。他科と合同ですることもあり、不幸な症例ばかりなのでストレスフルではある。ここでも感情労働はしないほうが良い。当事者に「なんでこれしてないの?」なんて発言するのはご法度であり、うまくいかなかった原因を仕組みを中心に議論するのが賢明である。オンコール体制や電子カルテのアラート、教育体制といったところを中心に議論をすすめたい。当該科、看護科はもちろん、検査部、輸血部、放射線部、薬剤部といった診療支援部門にも声をかけておきたい。繰り返しになるが、平時から良好な関係を築いておくことがM&Mカンファレンスが充実する一つの要因であることは論を待たない。

*1 もとはゼイレツニックという人の考えらしい。

マネージャーリーダー
全般的特徴問題解決者問題創出、企業家的
目標に対する態度受動的とは言わないが、没人格的
バランスを重んじる
相手に合わせるよりもアイディアを作っていく
仕事のとらえ方他の人がやりやすくなる過程
システムや機構を通じて解決を
断続的に調整が必要
情緒的な反応を抑制
リスクをとってアイディアをイメージ化
わくわくするイメージで人を魅了
長年の問題に新たなアプローチ
リスクをとり危険にも立ち向かう
波風は立つ
情緒面を表出する。怒りたいとき怒る。
他の人との関係単独は好まず他の人と仕事するのを好む
だが、直観力や共感力、度量に乏しい
「How」が大事
一人でリスクを取って決めることがあると承知。
「What」が大事
思い入れ、情緒的な反応あり
自己の感覚所属感覚を大事に分離感覚(超然、特別)
組織に所属しきらない自己像
育成のあり方・社会性を通じての育成
(社会化:個人を組織になじませる)
・個人のメンターよりも、広範な人々に対してほどほどの愛着
・同輩関係は攻撃性を抑制しつつ、競争やライバル関係を推奨
・個人的な熟達やマスター感を通じて育成
・その感覚で、個人は心理的社会的な変化に立ち向かう
・感受性豊かで直感的なメンターとの接触を通じて育成
・メンターとの個人的、感情的なつながりが要請される
・個人主義、企業家的もしくはエリート主義的な文化がなじむ
皆さんはどっち?個人でもチームでもどちらの素養も必要な気がします。特にERはね。
組織変革によって問題解決を図るペンギンたちの物語、某O先生に勧められて読みました。

*2 Learning pyramid まだ議論はあるところだけれど、理解されやすく成人教育の初学者にとってはありがたい。

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2013/PA03054_03

*3 Teachingのスキルとして一般的になったよね。

https://note.meidai-soushin.net/one-minute-teaching-method-based-on-evidences/

*4 参考にね。

小西先生は医療経営を学びにハーバード留学までされて研鑽されてきた方。

*5 M&Mカンファレンスの本

ちょっと古くなったけど、名著です。
カンファレンスではないですが、第1版は太田先生が翻訳されていたと思います。

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