大谷尚 質的研究の考え方 研究方法論からSCATによる分析まで 2019年 名古屋大学出版
一人でこれを書いてしまう大谷選手ではなく大谷先生はGreatです!量的研究との比較(直接比較することの危うさにも言及)もあって実証主義に凝り固まってしまった私には響いた本だった。今まで積読でごめんよ~。SCATという手法の本かと思いきや、第Ⅰ部 質的研究のデザイン、方法、パラダイムが250ページ以上!SCATの解説よりも長いじゃないか!!熱いぜ大谷選手いや大谷先生!
第1章 質的研究とは何か ― いくつかの基本的概念とその検討 ―
1.1 質的研究の今日の普及
社会サービスや人間科学に量的アプローチでは届かないものに対するアプローチ→量的をまず理解
1.2 量的研究と測定
量的研究:対象を測定することで数量化されたデータを得、それを処理して結論を得る研究(合点!)
Measurableとは
- もともと数(生徒数、医師数、ベッド数など)
- 測定値(血圧、知能指数、体重)
- 測定値の演算結果(BMI、体脂肪率、テストの平均点、LDLコレステロール)
- 構成された尺度(協調性尺度、QOL尺度、不安尺度)
Measurableで実践に結びつくためには、数量で与えられ、望ましい結果が合意されている。
1.3 量的測定になじまない、あるいは量的測定からこぼれ落ちてしまうもの
島医者の処方に関する疑問、瀕死の教師が教師を存続する、もしくは支える伴侶・・・
問題の核となっているのは、人々の価値観、信念、希望、意欲、意図、意識、意味、意義、気持ち、感じ方などの主観的、あるいは間主観的intersubjectiveで、言語的/非言語的で、動的で相互作用的なもので、量的・客観的には測定しにくい
(すべて測定できるものにしようと1940-50年代には、林の数量化という手法で質的なデータを量的に扱うための多次元データ分析法が開発された)
数理的・計量的実証性によって科学性をもって明らかにされたものも多いが、失ったものも多い。
1.4 質的な研究が「研究」であるための要件
適切な手続きでデータを採取しそれを一定の手続きで分析する。経験科学のひとつでここは量的研究と共通!
1.5 質的研究の構造
- 形而上学と形而下学は「反証可能性(falsibiability)」によって分けられる(ポパー1976)。
- 形而下学である理論科学と経験科学は実際のデータを使うかによって分けられる。
- 経験科学である量的研究と質的研究は実証主義的であるかによって分けられる(結構親戚)。
質的研究の内包的構造
- 仮説検証を目的としない。
- 実験的研究状況を設定しない。
- 観察やインタビューから主に言語記録を作成する(ただし既存言語)。
- 記録に基づいて分析し理論化する。
- 記録以外の資料も総合して検討する。
- 研究者の主観・主体的解釈を積極的に活用する。
- 研究対象の有する具体性や個別性や多様性を通して一般性や普遍性に迫る。
- 心理・社会・文化的な文脈を考慮してデータ採取とデータ分析をする。
- 現象に内在・潜在する意味を見出し研究参加者とともに人や社会の理解に努める。
1.6 質的研究の多様な思想的系譜と手法的系譜
思想的系譜:これらがパラダイムとなる
現象学、解釈学、現象的社会学、エコロジー、フェミニズム、批判理論、社会的構成主義、相互作用論、などなど
手法的系譜:パラダイムシフトを志向
自然主義的手法、解釈学的手法、構成主義的手法、脱実証主義的手法で具体的には、エスノグラフィ、グラウンデッドセオリー、ライフヒストリー、ナラティブアプローチ、文化心理学、カルチュラルスタディなどの手法が含まれる。
1.7 質的研究によるパラダイムの重要性
パラダイムとは、その研究者が依拠する存在論、認識論、価値観などである→質的研究にはパラダイムアウェアネスが必要!
<インタビューについての理解①>
インタビュイーは話すべき体験を確固たる事実として持っており、インタビュアーはそれを客観的に引き出すことができる。存在論=客観主義的実在論、認識論=実証主義
<インタビューについての理解②>
人は個々の体験を事実として持っているのではなく、主体と無関係では存在しない。体験しながら、もしくは後で、思ったり考えたり、人に尋ねられたり話したりするときに事実となる。その作業は常に社会的な文脈、条件、制約に基づいている。存在論=社会的構成主義や相互行為論
1.8 質的研究の「樹」-質的研究の生起と展開の場としての「日常」の重要性
この絵の大事なところは、質的研究は、日常生活の中で「経験」、「問い」、「検証」をすべて行っていること!量的研究は、日常で経験したことを実験的な研究の場(非日常)で条件を整え、検証する(Clinical questionをResearch questionにして長期間データをとり、対照的なデザインに等々)。
1.9 質的研究で用いられる諸概念
諸概念の地図のようなものを書くことを通じて、常に質的研究の全体を俯瞰するような姿勢が必要(一応辞書を買ったわ!)。
2 質的研究の「方法」と質的研究「方法論」
2.1 研究方法と研究方法論の同一視あるいは混乱によって生じる深刻な問題
(問題提起もどうして問題かは書かれていない)
2.2 研究「方法」≠研究「方法論」
これが異なることを認識することで質的研究は始まる。
2.3 研究方法「論」=研究方法「学」
2.5 質的「データ分析法」≠質的「研究法」
- 質的研究方法論
- 研究パラダイム(研究的存在論・認識論・価値論等)に関する認識<私にない>
- 量的実証的研究との異同についての議論と理解
- 種々の研究方法とそのパラダイムについての類型論(Typology)
- Mixed Methods Research等についての議論と理解
- 研究公正・研究倫理についての議論と理解
- 質的研究方法についての認識と具体的理解
- 研究目的の設定・評価方法
- 研究デザイン方法
- 質的データ採取方法
- 観察方法
- インタビュー方法
- フォーカス・グループの方法
- 文書研究・分析の方法
- アートによるデータ採取の方法
- 質的データ分析方法
- シークエンス分析(SCAT等)の方法
- 非シークエンス分析(グラウンデッド・セオリーでの分析等)の方法
- 質的マトリクスの方法
- ネットワークによる方法
- 分析結果の提示方法
- 提示方法の類型論についての認識
- 口頭発表の方法
- ポスター発表の方法
- 構文構成・執筆・発表の方法
- アートによる表象の方法
- パフォーマンス・エスノグラフィ等の方法
- 質的研究に適したタイトルの命名方法
- 提示方法の類型論についての認識
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